六年前に別れた元カレから、突然一通のメールが届いた。そこにはこう書かれていた。
「六年たっても冷めない愛で、永遠の愛を誓おう。君を迎えに行く準備はできている。」
最初は冗談かと思った。別れてから一度も会っていない相手だ。しかも私はすでに結婚し、二人の子供を育てている。生活も安定していて、過去の恋愛に浸る理由など一つもない。だからこそ、彼の唐突な言葉に恐怖よりも先に「滑稽さ」を感じてしまった。
だが、メールは一度きりでは終わらなかった。翌日も、その次の日も、まるで日課のように彼から「ロミオメール」が届いたのだ。
「君が返事をくれないなら、家まで迎えに行くからな。」
「六年待ったんだ。もう十分だろう。鍵を渡してくれ、君と結婚してやる。」
「周りの誰も理解しなくてもいい。俺は君と子供が欲しいんだ。」
メールの文面は日に日に異様さを増していった。かつての優しさは欠片もなく、ただ一方的な執着だけが羅列されている。しかも彼は私より18歳も年上だった。若さゆえに付き合っていた頃は気づかなかったが、冷静になって読み返せば、彼の要求はどれも支配的で恐ろしいものだった。
私はすでに結婚している。家も引っ越しており、彼が現住所を知ることはないと信じていた。だから、夫と相談のうえ「無視する」という選択をしたのだ。
返事をすれば彼を喜ばせるだけ、刺激すれば逆上しかねない。放置が最善だと思った。
しかし――それは甘い考えだった。
数週間後、子供を連れて買い物に出かけたときのこと。懐かしさに誘われて学生時代によく行ったスーパーに立ち寄った。買い物を終えて帰ろうとしたその瞬間、背後から旧姓で呼び止められたのだ。振り返ると、そこに立っていたのは、あの元カレだった。
心臓が凍りついた。スマホの画面越しにしか存在しなかった「彼」が、目の前に現れたのである。しかも彼は笑顔を浮かべながら、私の娘に手を伸ばそうとした。
「君に似てるな。やっぱり俺の子供が欲しい。」
ゾッとする言葉だった。私は反射的に娘を抱き寄せ、「触るな!」と声を荒げた。その瞬間、彼の顔色が変わり、低い声で何かを呟きながらにじり寄ってきた。周囲に人は少なく、逃げ場もない。背筋を走る悪寒と同時に、全身の力が抜けそうになった。
幸いだったのは、少し離れた場所にいた夫が駆け寄ってきたことだ。夫の名前を呼ぶ声に反応し、元カレは一歩引いた。そして舌打ちを残し、その場から姿を消した。
すぐに警察に相談したが、証拠が乏しく「今の段階では動けない」と言われた。
ただ記録として相談実績を残すことはできたため、それを頼りに注意深く生活するしかなかった。
だが、その後もメールは続いた。
「俺から逃げられると思うな。」
「子供も一緒に幸せにしてやる。」
「お前の夫は偽物だ、本物の伴侶は俺だ。」
脅迫めいた内容に変わっていき、しまいには「殺す」という言葉すら混じり始めた。私は恐怖で眠れなくなり、外出すら控えるようになった。子供たちを守らなければという焦燥感が募る一方、どこまで彼が私の生活を知っているのか分からないことが何より怖かった。
夫は弁護士を通じて接近禁止命令の準備を進めてくれた。警察もパトロールを強化し、近隣で不審者を見かけた際はすぐ通報するようにと言われた。ようやく少しだけ安心感を取り戻したが、それでも「偶然の再会」が再び起きるのではないかという不安は拭えない。
六年の沈黙を破り、突如現れた元カレ。愛という言葉を盾にして、ただ自己中心的な欲望を押しつける姿は「愛」ではなく「執着」そのものだった。メールを無視していれば消えると思ったが、現実には彼は現れ、そして娘に触れようとした。その瞬間を思い出すだけで、今も震えが止まらない。
「永遠の愛を誓おう」と言われても、それは私にとって悪夢でしかない。愛を語りながら暴力や脅迫に変わる行為は、決して愛ではない。
私が学んだのは、相手の執着を軽く見てはいけないということだ。たとえ別れて何年経とうとも、未練が歪んだ形で蘇ることはある。そして、それは最悪の事態を招きかねない。
現在、元カレのメールは弁護士を通じてすべて記録されている。直接の接触はないが、いつ再び現れるか分からない不安は残る。それでも私は、家族と共に前を向いて生きるしかない。過去に縛られるのではなく、未来を守るために。
六年たっても冷めない愛――その言葉は、私にとって「呪縛」の代名詞となった。そして一度の放置が、最悪の現実を引き寄せてしまったのだ。
引用元:https://www.youtube.com/watch?v=pwMpkpBhAoU,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]